誰か実有の相に著せざる

…また、いとけなき子をすかし、おどし、いひはづかしめて興ずることあり。おとなしき人は、まことならねば、事にもあらずと思へど、おさなき子には身にしみて恐ろしく、はづかしく、あさましき思ひ、誠に切なるべし。是をなやまして興ずること、慈悲の心にあらず。おとなしき人の、喜び、怒り、悲び、楽ぶも皆、虚妄なれども、誰か実有の相に著せざる…

徒然草129段より

私訳
…また、幼い子をだまし、おどかし、からかっておもしろがることがある。大人は本当のことではないとわかっているので、たいしたことではないと考えているのであるが、幼い子にとって、身にしみて恐ろしく、恥ずかしく、呆れたことだと感じる気持ちはとても真剣であるに違いない。こういった気持ちを苦しめておもしろがることは、慈悲の心ではない。大人が喜び、怒り、悲しみ、楽しむのもまた皆虚妄であるとわかっているとはいうものの、実在の現象として執着しないでいることなどできようか…

私感
普段の生活で、微妙だなあと感じる部分をまったくうまく表現してくれていることだよ。