忘れられた日本人

「忘れられた日本人」宮本常一岩波文庫
すわんさんのブログ(http://d.hatena.ne.jp/mescalito/)を経由して知りました。

これは他の人にも読んでもらいたいと思ったので少し感想などを書いておきます。特に、「田舎に帰るのがうざい」と思っている地方出身大学生に読んでほしい。

この本を読んで田舎のよさを認識せよとか、そういうことを言うつもりは全くない。ここで描き出されているそれぞれの地方の個人個人の生き生きとした在りようを読むことは、あなたが育ってきた地方を見るときに別の感じ方が湧いてくるかもしれないという可能性を感じるから紹介している。

民俗学をやっている人は多くの場合、みな人がよくて気がおけぬし、功名心にかられる人がいない。その上、村のどういう話をしても、それをさげすむ者もいなければ、また誇大にいいふらそうとする者もない。高木さんは自分たちの生活を心おきなく話しあえる同志が全国にいるということは本当に気がつよいという。東北の一隅にいても一隅にいるという気がしない。自分のいるところが中心なのだという気がする。「この学問は私のようなものを勇気づけますなあ、自分らの生活を卑下しなくてもいいことを教えてくれるのですから……」高木さんの話には一々深い感慨がこもっている。「百姓のやらなければならぬ学問ですなあ。みんながこんな風に自分の生活をふりかえるようになると百姓もみなよくなるでしょう」…

この部分は本のかなり後に出てくるが、ここまで読み進めた私は<自分らの生活を卑下しなくてもいいことを教えてくれる>というところに、まさにそうだなあと思った。

実際に四国の辺境で生活して、その後、都会に出てきて大学生活をおくることになったからといって、別段相対化したものの見方ができるようになるわけでもない。むしろ東京にきてから、私は育ってきた田舎のことを必死で卑下するようになったように思える。で、この本を読んでいると、「なに必死こいてたんだろ」という感覚が湧いてくる。別のところからの興味というか疑問というのが湧いてくる。

例えば、本の前半部分には寄り合いについて描かれている。この部分を読んで思い浮かんだのは次のようなことである。

うちの田舎町でも、小さな部落がいくつもあって、その呼び名は小単位のものと中単位のものがある。小単位の部落名としては、○○田、○○寺、辻堂、筋違(スジカイ)などがある。今まで気にも留めなかったのだが、寺の名前自体が部落名になっていたり、辻堂なんてそのまんまの部落名もあったり、筋違という意味深な部落名もおもしろいなあ。今まで何も感じなかったけどねw。それから、中単位の部落名としては、東部、南部、西部などがあり、なんだか小学校の部落対抗リレー用に六つくらいに分けたような感すらあるストレートな区切り方である。そこでふと思ったのが、東部、南部、西部が分かるのだから、うちの町の中心部がどこら辺りなのかが分かるということだ。こんな当たり前のことすら今までは頭に上ったことはない。そこで、中心部はどこになるのかというと、ちょうど役場のあるあたりである。ここでまた一つの疑問が湧いてくる。後付のような感じすらある中単位の部落名は、比較的最近の区切りであり、町の中心がずっと昔から今の位置にあったのかについてちょっと疑問を感じたりしてくる。中心が移った後の区切り方なのかもしれないなどいろいろと想像が掻き立てられてくる。それから会堂の位置取りなども。

帰省したらうろうろと歩いてみたい。

エロ話や夜這いの慣習・コミュニケーションのあり方などについてもいろいろと思うところがあったのですが、とりあえずここまで書いておきます。

生き生きと描き出してくれる人の大切さを感じます。

12/8:追記

この本では、私の田舎に場所的に近いところも描かれていて、夜這いとかエロ話とかそういう部分はかなり近い。それに寄り合いの感覚も近い。そういう意味でかなりイメージをもてました。

うちの母は北海道出身で、四国のこの土地柄に今でも抵抗を示しています。この土地の方言を使うことすら拒否し続けてきました。ただ私自身は子どものころは実は結構楽しかった部分もあったもので微妙なんですが、一般的にこの土地柄が良い悪いということに結び付けてしまって生き生きした部分が見えてなかったかもしれないとちょっと思いました。

卑下している対象・原因の元を「実はよいものなんだよ」と言われるよりも、生き生きとした様子を描いて見せられることで、思ってもみなかった別のところから何かが感じられてきて、卑屈感がそれ程気にならなくなることもあるのかなと。

ところで「土佐源氏」の部分も個人的に印象に残りました。

なんとまあやさしい人もあるもんじゃと思いましたなあ。わしらのような出たとこ勝負のやったりとったりとは、てんでものがちがうんぞな。なにもかもたまげることばっかりよのう。

実はまったく同じようなことを心の中でつぶやいたことが私にもあります。同じ大学の女の子にですねw。女友達はそんなに多くはありませんが、なんというかものがちがう優しさというのを感じたことがあります。ちょっと半泣きしそうになるくらい。そんなにかわいすぎていいの?みたいな。 別に他意はありません、そのまんまです。

なにもかもたまげることばっかりよのう。